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不動産ゼミ

公共用地の購入と不動産鑑定

不動産ゼミ

不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回は公共用地の購入にあたり、不動産鑑定士の意見が最高裁の裁判官の判断において決定的な影響を与えなかったと考えられる最高裁判決を見ていきます。最高裁判決は、平成28年6月27日判決(裁判所時報1654号4頁搭載)(以下、本判決といいます)です。

公共用地の取得に関しては、不動産鑑定評価が必要であったり、地方自治体の規則に不動産鑑定評価を実施する旨規定されている場合が多いと思います。そもそも憲法29条3項で、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と規定しており、公共用地の取得にあたっては、主観的な価格ではなく、客観的な適正価格(正当な補償)を支払う必要があります。不動産鑑定評価を必要とする根拠法としては、土地収用法71条、地価公示法9条の2、不動産の鑑定評価に関する法律2条、損失補償基準などがあると思います。

1.事案

 本判決の事案の概要は以下のとおりです。すなわち、O市がO市土地開発公社との間で土地の売買契約を締結し、これに基づき前市長が売買代金の支出命令を出したところ、市の住民であるⅩらが、この売買契約の締結および支出命令は違法であるなどとして、市の執行機関である現市長のO市長を相手に、地方自治法242条の2第1項第4号に基づき、売買契約の締結および支出命令をした当時の前市長の相続人らに対し、不法行為に基づく損害賠償の請求をすること等を求めた住民訴訟で、原判決の高松高等裁判所平成26年4月24日判決が、売買契約のうち隣接地に係る部分に財務会計法規上の違法はないとする一方で、同契約のうち土地に係る部分につき、前市長の相続人らに対する損害賠償請求を求めたⅩらの請求を一部認容すべきものとしたため、O市長が最高裁判所に上告しました。

2.判決の概要

最高裁の判決の概要は以下のとおりです。すなわち、市がすでに取得していた隣接地と一体のものとして事業の用に供するため、土地開発公社の取得した土地をその簿価に基づき正常価格の約1.35倍の価格で買い取る売買契約を締結した市長の判断は、①隣接地の取得価格は、近隣土地の分譲価格等を参考にして定められたものであり、相応の合理性を有するものであったこと、②売買契約に係る土地の1㎡あたりの取得価格は、隣接地の1㎡当たりの取得価格を下回るものであり、これを地価変動率で売買契約締結当時のものに引き直した価格をも下回るものであったことなどの判事の事情の下では、その裁量権の範囲を逸脱しまたはこれを濫用するものとして違法となるものではない。

3.不動産鑑定の示す基準

(1)詳細な経緯 

O市は、O市教育事務所および情報センターを建設する事業(以下、本件事業という)を行うこととし、平成16年8月26日、土地開発公社に対し、本件事業の用に供する土地を先行取得する旨の依頼をしました。

公社は、平成16年9月29日に、土地区画整理事業地内の保留地たる本件土地(909.75㎡)その他17筆の土地(合計1万4,579.9㎡)を代金合計9億2,933万9千円(約63,700円/㎡)で取得しました。

 市は、平成16年11月17日に、本件隣接地(本件土地の隣接地2,453.09㎡の土地)を、先行取得するにつき、公社に委託する旨の契約および協定を公社との間で締結しました。購入代金は、2億777万6,723円(約84,700円/㎡)です。これは、公社が購入した17筆の土地の分譲単価や近隣2か所の県基準地の標準価格(139,000円/㎡および102,000円/㎡)を参考にして決めたものであり、このときは不動産鑑定評価を実施しませんでした。

 ところが、市は、平成17年2月13日施行の市長選挙の結果、前市長が市長に就任したことに伴い、図書館の建設事業を優先することとして、本件事業の計画を凍結しました。

 市議会においては、本件土地および隣接地の購入費として2億7,524万1千円(土地区画整理事業地内の保留地の平成19年度末簿価等を未売却の土地全体の面積で除して算出した72,400円/㎡に基づき計算したものです)を計上しました。このときも鑑定評価を実施していません。

前市長は、平成19年8月14日、公社が本件土地を6,586万5,900円で買い取るにあたり、立替金、諸経費、利息等も合わせて支払うため、市を代表して、公社との間で、本件土地および隣接地を代金2億7,509万4,300円で買い取る形式で売買契約を締結しました。

(2)不動産鑑定が示した基準となる数値

 おそらく原告であるXらが不動産鑑定評価を不動産鑑定士に依頼したもの(以下、本件鑑定という)と思われますが、隣接地の平成16年12月7日時点の正常価格は、1億6,348万1,700円(66,700円/㎡)であり、本件土地の平成19年8月14日の正常価格は4,867万1,625円(53,500円/㎡)で、不動産鑑定士による鑑定評価の結果、本件土地と隣接地における平成16年12月7日から平成19年8月14日までの地価変動率は、愛知県全体および県基準地の年間地価変動率等から、マイナス10.7%。

 また、本件鑑定では、公共用地を取得する場合の価格の許容範囲を正常価格の1.15倍程度との不動産鑑定士の意見も表明されています。

(3)不動産鑑定士の意見が最高裁判所裁判官に決定的な影響を与えなかった

 判決文では、ところどころ不動産鑑定士の鑑定評価書に示した意見が登場し、それが最高裁の裁判官の判断において、一つの基準となっていることがわかります。しかし、事案の判断にあっては、隣接地の84,700円/㎡が、17筆の土地の分譲価格や隣接地の近隣2か所の県基準地の標準価格等を参考として定められものであることを重視し、相応の合理性があるとしました。本件土地についても、72,400円/㎡は上記の分譲価格や標準価格を下回るものであるとしています。

 そして、鑑定士が判断した正常価格は、本件土地を取得する目的や本件売買契約の締結に至る経緯等を考慮していないものであることが明らかであるうえ、本件土地の取得価格と正常価格との較差(約1.35倍)自体についても、隣接地の取得価格と正常価格との較差(約1.27倍)と比較して、顕著な相違があるとはいえないとしました。

 しかし、市が取得価格を決定するに当たり、不動産鑑定を実施していない点は、取引の実例価格等を必ずしも十分に考慮していない面があることは否定できないとしています。

4.最後に

 判決文中に、鑑定士が判断した正常価格は、本件土地を取得する目的や本件売買契約の締結に至る経緯等を考慮していないものであることが明らかである、との個所がありますが、実際の鑑定評価書を見ていないので正しいことは言えませんが、土地を取得する目的や本件売買契約の締結に至る経緯等も十分に考慮し、その旨をきちんと鑑定評価書に記載するべきだと思われます。

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