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不動産鑑定士で創価大学法学部の教員の松田佳久です。今回は「隣地通行権と私道」についてみていきたいと思います。
隣地通行権は、民法210条に「公道に至るための他の土地の通行権」として規定されています。今回は、行政財産たる土地に隣地通行権を主張できるとされた事案[1]についてみていきます。
[1] 宮崎裕二『新版<Q&A>重要裁判例にみる私道と通行権の法律トラブル解決法』77-79頁(プログレス、2025年)を参考にした。
この裁判例は、「通行地役権確認等請求控訴事件」とされ、論点は以下の点でした。
係争の対象地は、甲府少年鑑別所の敷地の一部であって、そのことについては当事者間に争いはありませんでした。少年鑑別所の敷地は国の所有であり、国の事務に供されていますので、「行政財産」ですし、その点は明白です。
一方、国有財産法18条によると、行政財産についての私権の設定は無効とされています(下記参照)。
「国有財産法第18条(処分等の制限) 行政財産は、貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、信託し、若しくは出資の目的とし、又は私権を設定することができない」
したがって、私道設定はできないのではないかとの疑念が生じます。この点につき、裁判官は、「民法の相隣関係の規定は、隣接する土地相互の利用関係を調整するため、隣地所有権に消極的な受忍義務を負わせるにとどまるものであるから前記「私権の設定」にあたらないというべきである」と判断しました。
つまり、国有財産法第18条の規定に民法の相隣関係の規定は抵触しないということになります。よって、本件袋地の隣地であります行政財産たる少年鑑別所の敷地についても、「民法210条以下の適用があると解するのが相当である」と判断しました。
なお、この裁判で、行政財産について取得時効が否定されるその理由が、当該財産の所有権が私人によって取得されると、公の用に供されるなどの行政財産の目的が達しえなくなるおそれがあるためであり、その理由からすれば、相隣関係の規定の適用についても、ほぼ同様のことがいえるのではないかとの主張がなされたものの、相隣関係の規定の適用についてはそのような理由は妥当しないとの判断がされています。
(参考:行政財産(公共用財産)であっても、例外的に時効取得される場合があると判断している最高裁判所の判断があります。最高裁判所昭和51年12月24日第二小法廷判決(最高裁判所民事判例集第30巻11号1104頁)は、長年の経過により、黙示の公用廃止がある場合、例外的に時効取得がされる場合があるとしています。)
事案の解決としては、下記のとおり、隣地通行権を否定しています。
理由1:本件対象地の北および東は甲府少年鑑別所の外塀に接し、西および南は丸太杭を打込みこれに数条に亘り有刺鉄線を張って立入りを禁止しており、本件対象地中、本件袋地に近い部分は、東北方向へ屈曲しているため、係争地の南を東西に走る市道からは見通すことができず、仮にここから鑑別所に収容されている少年に不正な接触を試みる者があっても、発見が容易ではない。
理由2:本件対象地の西側には建築資材が放置されているので、本件対象地が開放されると、右資材を用いて鑑別所の外塀を乗り越えることはさして困難でない状況にある。
理由3:現在の鑑別所職員数をもつてしては、塀の外側を常時巡回視する余裕はない。
以上の理由から、鑑別所収容の少年の逃亡の防止、少年と外部との不正な連絡の遮断を行う必要があり、鑑別所の敷地の一部を隣地通行権として利用することは、民法211条第1項本文に抵触するため、認められないとしました。
すなわち、「囲繞地にとって最も損害の少ない」ということはいえない、と判断されたことになります。
「第211条第1項 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない」
この裁判例は、「土地境界確認等請求事件」とされ、「民法210条及び213条の関係についての解釈」が論点でした。
この事案は当時国立大学(現在は国立大学法人)でありました東京学芸大学の事案です。当時、袋地の所有者等は、東京学芸大学の敷地の中にあるコンクリート舗装された国有道路を利用して公道に出ていました。しかし、学芸大学がその国有道路を袋地所有者が利用できない形に、袋地と道路の境界線上にブロック塀を設置してしまいました。そこで、袋地所有者は、権利の濫用であるとして東京学芸大学を訴えました。
袋地所有者は、袋地に病院関係者のための宿舎としてのアパートと車庫を建てており、多くの病院関係者が入居し、当該国有道路を利用していました。
判決としては、袋地の所有者のため、他の囲繞地の利用状況その他諸般の事情を勘案のうえ、通行権者のため必要で、かつ、囲繞地のためもつとも損害の少ない場所につき、民法第210条、第211条による有償の通行権を認めるのが相当であるとし、また、本件土地上のアパートは、病院関係者多数の宿舎としても利用されていること、宿舎と病院との運動用や夜間あるいは緊急の場合の連絡用として,自動車(マイクロバス)の使用が不可欠であることが認められるとして、自動車での隣地通行権を認めました。
学芸大学は、自動車で通行することにより、その騒音で学芸大学内の静穏が害されるとか、学内関係者の進行に特別困難を招来するなどを主張していましたが、そのおそれはなく、その弊害は、徒歩による通行の場合と同様せいぜい、道路の両側の植込みの一部の生育を害する程度にすぎないと認められる、として一蹴されています。
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