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注目テーマ

デジタル・ロジスティクス~物流DXが倉庫賃料相場に与える影響の考察~

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1.物流を取り巻く環境

 物流(ロジスティクス)とは、倉庫業と運送業を主体とするモノの流れ全般を指しますが、英語のロジスティクスという言葉はもともと軍事用語で「兵站(≒戦略)」を意味します。従来の物流は生産や販売を影で支える「縁の下の力持ち」的な存在でしたが、社会が複雑化してモノを確実に届けることの重要性が高まった結果、現代の物流は生産や販売の上位に位置するビジネス戦略と位置づけられ、「物流を制する者はビジネスを制する」とまで言われるようになりました。

 身近なところでは、コロナ禍の経験もあってEC(ネット通販)市場が飛躍的に拡大していますが、他方ではトラックドライバーをはじめとする物流従事者の高齢化や人員不足が深刻化しており、特に2024年問題(労働時間の残業規制)は「東京-福岡」間のような物流拠点間の幹線輸送に大きな影響を及ぼしています。このままでは、2030年には物資や燃料の30%が運べなくなり、国の経済活動に重大な支障が生じる可能性(物流クライシス)が指摘されています。

 物流クライシスの回避に向けて、物流業界では自動運転トラックや自動運航船を筆頭に民間DXによる省人化が進められていますが、国の対策も本格化しており、物流効率化法では年間9万トン以上の荷物を取り扱う特定荷主に対して、物流効率化計画の提出やCLO(物流統括管理者)の設置を義務づけています。CLOはビジネス社会におけるいわば軍師のような存在であり、今後は物流会社と荷主企業が一体となってサプライチェーンの改革に取り組むことになります。

2.海上輸送の重要性

 日本は物資や燃料の輸入を海上輸送に依存しているため、その安全性の担保は国の経済活動を維持する上で不可欠なものとなっています。主要航路上の地政学的なリスク、チョークポイント(航路上の重要拠点)の不安定化、海外主要港の混雑、サイバーリスク、カーボンニュートラル等、海上輸送を取り巻く事業環境は近年に入って大きく変化しています。実際に、3月のホルムズ海峡の封鎖では、チョークポイントの通航制限が世界中の国々の物価水準に影響を及ぼすことになりました。

 一般財団法人運輸総合研究所が2024年に設置した委員会では、海上輸送のリスクマネジメントについて、産官学の関係者による議論が行われてきました。6月の提言では、海上輸送が確保すべき物流基盤として、①海事産業(海運業や造船業の競争力強化)、②港湾(物流結節点としての機能強化)、③国際連携(他国との連携による海上秩序の維持)等が掲げられています。物資や燃料の99%は主要港で荷揚げされた後、トラックや鉄道で内陸部まで運ばれることになります。

3.マテハン機器の普及

  物流には大きく6つの機能があります。①輸配送、②保管、③荷役(倉庫内での荷物の移動)、④流通加工(工場ではなく物流センターで最後の組立等を行う)、⑤包装(梱包)、⑥情報(WMSやTMS等の管理システム)の6つですが、マテハンはマテリアルハンドリングの略で、マテハン機器とは③の荷役の局面で使われるAGV(自動搬送機)やロボットアーム等の機器類のことをいいます。

 輸配送における自動運転トラックや自動運航船はまだ実証実験の最中で、社会実装にはもう少し時間がかかる見込みですが、マテハン機器に関しては既に最先端の機器類が物流センターに配備されています。いずれの機器も荷役業務の省人化を図るためのものですが、最近の物流センターの内部は倉庫というよりはロボットのショールームのような状態になっているようです。

 これらの機器類は導入に際して配線工事や管理システムとの連携が必要になるため、マテハン機器メーカーやソフトウェアメーカーとは別に導入をサポートする業者も存在します。また、特にソフトウェアの分野ではスタートアップの存在感が大きく、大手の物流会社はCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の手法でスタートアップに出資しています。また、オープンイノベーション(共創)の観点から大手企業とスタートアップの交流イベントも増えています。

 最近の傾向として、物流施設の供給者であるデベロッパーは、建物に加えてマテハン機器までテナント向けに貸し出すようになりました。今はレンタル方式ですが、将来的には最初から機器類を備え付けてセットアップオフィスのような貸し方をしてくる可能性があります。その場合、レンタル料は賃料に含まれてきますので、賃貸事例の取扱いや市場賃料の査定には十分注意する必要があります。また、荷主や3PL事業者(荷主の外注先)が必要とする機器類は荷主の業界によっても異なるはずなので、倉庫の賃料に関しては業界ごとに異なる相場が形成される可能性もあります。その場合、採用する賃貸事例は荷主の業界が同じものを選ぶ必要があります。

4.物流DX~ヒューマノイドがもたらすもの~

 これまでのマテハン機器は、人間の上半身にあたるロボットアームと下半身にあたる自動搬送機が別々に開発されてきましたが、人間の目に相当するセンシング技術の進歩は上半身と下半身が一体化したヒューマノイドを誕生させました。中国にはヒューマノイド関連のスタートアップが既に数万社あると言われますが、AIを搭載したヒューマノイドはプログラムの指示通りに動くだけではなく、目の前の画像を分析することによって自分の判断で行動することができます。

 日本でも、ホテル業界やレストラン業界ではサービスロボットの導入が進んでいますが、物流現場への投入は安全面等の問題から数年後になると予想されています。しかし、ヒューマノイドの導入が本格化すれば人手不足の問題は解消されるので、倉庫の立地特性にも変化が生じることになります。例えば、労働力の確保に必要な駅接近性等の要因は重要性が下がり、特に保管型の物流センターはネットワーク上の障害さえなければどこにでも建てられるようになるため、既存施設の賃料が影響を受ける可能性もあります。

 マテハン機器がDXのD(デジタル化)であるのに対し、ヒューマノイドはビジネスモデルそのものの改革を意味するX(トランスフォーメーション)に該当するイメージがあります。このレベルの変化が起きると、企業の収益力(賃料負担力)はまったく異なるものとなるため、賃料の相場も大きく塗り替えられることになります。新しい相場が形成されるまでの過渡期においては、セグメント会計等の手法で倉庫単体の事業収支をはじき出し、そこから負担可能賃料を求めることになるでしょう。

5.サプライチェーン(固定型)からサプライウェブ(相互乗入れ型)へ

 サプライチェーンとは、素材の調達、部品の加工、完成品の生産、消費者への販売といった供給プロセス全体を指します。調達先や納品先との関係は総じて固定的で、鎖のようにつながっているのでこのように呼ばれます。しかし、最近は電機メーカーがEVを開発したり、自動車メーカーがスマートシティを建設する等、業界の垣根を超えた競争が激しさを増しています。現時点では大企業が中心ですが、この流れはいずれ中小企業にも波及するものと思われます。

 不特定多数の相手方との取引を円滑に行うためには、企業同士をつなぐプラットフォームの存在が不可欠です。ホテルの予約ではOTAのプラットフォームが当たり前のように使われていますが、物流業界でもトラックの配車や保管スペースの手配にはマッチングアプリのようなものが使われています。今後は時代の流れに合わせて様々なプラットフォームが誕生し、サプライ網もこれまでのチェーンからウェブ(クモの巣)へと変遷を遂げることが予想されます。

 ビジネスが複数の業界を横断して接続された時、次に問題となるのは「標準化」です。
物流業界では比較的早い段階から標準化に対する取組みが進められてきましたが、管理システム等のソフト面での標準化に比べると、マテハン機器等のハード面での標準化は遅れています。例えば、日本では11型パレット(1.1m×1.1m)が標準規格とされていますが、その普及率は3割程度にすぎません。全体最適の観点からは11型に統一すべきなのですが、パレットの変更は工場の生産ラインにも影響し、コンベアや高層ラック等の設備全体の更新を伴うため、簡単にはいきません。

 ハード面での標準化の遅れは、物流市場に歪みをもたらし、倉庫の賃貸に関しても様々な制約を課しているように思います。しかし、海上コンテナが世界規格で統一されているように、国は現在、トラック運送や鉄道輸送で使われる運搬具の規格の統一に取り組んでいます。これが実現すれば、複数の企業による共同物流が容易なものとなり、国の物流効率は飛躍的に高まることになります。そうなれば、トラックターミナルや通過型倉庫での積み直し作業はなくなるため、無駄な賃貸が減って、倉庫の賃貸市場は本来の健全な状態に近づくことになります。

6.物流を起点とする企業再生

 既に経済が成熟し、少子高齢化に転じた日本では、将来的にも生産年齢人口の増加は期待できません。外国人労働力の受入れや将来的なヒューマノイドへの期待はありますが、今はどの業界でも人手不足から賃金水準は上昇しています。このままでは、日本の製造業は人件費の問題から海外に工場を移すことになり、かつての中国のように「世界の工場」と化した新興国では工場労働者を中心に巨大な中間層が形成され、生産(供給)に続いて消費(需要)の中心も新興国へシフトする可能性があります。

 デベロッパーやハウスメーカーの海外進出が目立つのも人口動態上の理由によるものと思われますが、日本企業の海外進出をサポートする国内の物流会社も海外での事業を強化し始めています。日本の物流は他国と比べても高品質・高価格なのですが、これは日本では売主が物流費を負担するため、その分はあらかじめ商品の価格に織り込まれていることによります。一方、海外では商品の価格とは別に買主が物流費を負担することが多いため、物流に関しては品質よりもコストを重視する傾向が強く、結果的に届いた商品が壊れていたり、届かないことも珍しくはないようです。

 物流に対する国ごとの意識の違いをなくすのは簡単ではありませんが、食品ECや越境ECが世界中で拡大している現状に鑑みれば、労働集約型の品質の低い物流はいずれ使われなくなる可能性があります。他国に先んじて物流の装置産業化を実現し、サステナブルな国際物流網を構築できれば、それが海外取引におけるプラットフォームとなり、国内でも注文の増加によって多くの中小企業が息を吹き返すかもしれません。最近はM&Aによる企業再生が目立ちますが、物流にも企業を再生する力が秘められています。

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