三友ヒストリー

第五話 ニッチ分野を切り拓く

一両日中に答えが欲しい

新たに投入した1万5千円(当時)の不動産調査報告書に対する金融機関からの受注も軌道に乗ってきたころ、無理難題を持ちかけても何とかこれに応えてくれる井上のアイディアマンぶりを見込んでくれたのか、取引先の金融機関から新たな要望が寄せられました ─ 「現地に見に行かなくて良いので物件の大体の価格を一両日中に低コストで知りたい。」

必要になった理由を聞くと、以前に現地も往査して評価を行っているので、その後、価格水準がどう変化したのかだけ把握できればよいケースや、正式な鑑定評価を行う件数を絞り込むために、一次選別の参考情報として不動産相場を大まかに把握したいといった事情があることが分かりました。不動産鑑定であろうが不動産調査であろうが現地を往査することは当然と認識していた井上でしたが、金融機関からの新たな要望に耳を傾けるうちに、依頼目的次第では必ずしも現地調査を行う必要は無いことに気付いたのです。

机上調査という新たなスタイル

一両日中に不動産相場を知りたい ─ この要望に応えるために、井上は現地調査を一切省いて近隣の不動産業者へ電話で相場を聞き取り調査する商品を考えました。これなら所要時間も短く、翌日には回答できそうです。所要時間が短いということは料金も安くすることができます。

図5:結果的には「商品開発」戦略を採っていた
図5:結果的には「商品開発」戦略を採っていた

早速、井上は不動産調査員の中で外回りの調査よりも社内で電話による聞き取り調査をすることを希望する人を募り、机上調査員としてその任にあたってもらうことにしました。現地の状況も知らないままに地元不動産業者に問い合わせるため、聞き方には相当のスキルを要します。そのことは、金融マン時代に不動産業者に相場を尋ねても相手にされなかった自身の経験から痛いほど分かっていました。

しかしながら、場数を踏むうちに成功パターンが少しずつ蓄積されていったことや調査員の聴取技術も向上したことで、鮮度の高い有益な情報を収集できるようになりました。こうして机上調査という商品カテゴリーは一つの分野として確立されていったのです。

他社にない自社の強み

商品開発にエネルギーを注いだ会社創成期を振り返って井上は次のように述懐しています。

「不動産調査や机上調査は、不動産鑑定に比べれば報酬単価も低く、不動産鑑定士という資格を要しない傍系のサービスとも言えるので、従来の不動産鑑定業者であれば依頼主から商品設計を頼まれても断ったであろう。ところが不動産鑑定士でもない自分は、先生業として起業したのではなく、不動産金融に関する業務を効率的に支援する情報サービス業として起業した。そんな三友だったからこそ、顧客の要望に応える柔軟な商品開発が果たせたと思っている。」