三友ヒストリー

第六話 情報のリユース

金融機関へマクロ情報を無償提供

井上は、日本生命在籍時代に現在の「ニッセイ基礎研究所」の前身である研究部門の経済調査室に3年間在籍したことがあります。そのような経歴もあって、起業後も研究・分析といった業務に対しても折りあるごとにアイディアを温めてきました。そして、平成8(1996)年11月には「三友不動産金融研究所」というシンクタンク部門を設立します。

三友不動産金融研究所では、主要地方裁判所が公表する競売不動産の開札・落札情報を活用した不動産競売市場の分析レポートや、社内に蓄積された地価情報を統計処理して求めた地価インデックスなどを不動産金融分野におけるマクロ情報として定期的に無償提供するサービスを開始し、現在も継続しています。

ネット系ベンチャーの誕生

そもそも資源の無駄遣いが大嫌いな井上が考えていたのは、不動産鑑定評価や不動産調査の過程で得られた情報のリユース(再利用)でした。1990年代後半には年間3~4万件もの全国各地の地価水準情報が副産物として社内に蓄積されるようになり、そのまま再利用せずに放置しておくのはもったいない、何か新たなビジネスにつなげられないかと模索していたところ、思わぬところから道が開けました。

トヨタ自動車系列の航空事業・空間情報事業の大手である朝日航洋株式会社の役員にそのアイディアを話したところ、三友側が評価手法の考案、朝日航洋側がGIS(地図情報)システムの開発で協力し、地図上で対象不動産を指定することにより不動産価格を算定できる会員制有料サービスをインターネット経由で提供する計画がトントン拍子でまとまりました。

一年の開発期間を経て、井上が63歳の平成12(2000)年8月に2社目の起業となる「株式会社タス」が設立されました。社名は、出資者である、トヨタ自動車、朝日航洋、三友のそれぞれの社名の頭文字をとってTAS=タスとし、提供する不動産評価システムをTAS-MAPと名付けました。創業当初は市場開拓に苦戦しましたが、住宅ローンやアパートローンの審査用にメガバンクで採用されたことを契機に、次第に事業は安定化。三友にとっても地価情報提供料と配当金という形で収益がもたらされるようになりました。

図6:本業の副産物が連鎖的に新たな付加価値を生んだ
図6:本業の副産物が連鎖的に新たな付加価値を生んだ
起業15年を経て得た強み

井上にとっては、不動産鑑定も不動産調査も、情報を収集し、整理・分析して、報告するという情報サービス業でした。井上は蓄積された情報という資源を一回使っただけで廃棄物扱いせず、加工して新たな需要者に新たなコンテンツとして提供するためにさらにアイディアを捻りました。

多くの情報が蓄積されていなければこのような情報のリユースビジネスは成り立ちませんが、図らずも、年間数万件の不動産鑑定や不動産調査を取り扱う企業に成長した結果、その副産物としてとして大量の情報という資源が自動的に蓄積されていく仕組みが構築されていたことは、起業15年を経て得た三友の強みでした。