社員紹介「こたえる・ならべる・つなげる」プロフェッショナル

ケミストリーとミクロ経済のあいだ。

不動産鑑定は、自分のやりたかった
化学に少し似ているのではないかと考えた。
木村
●当社に入社する経緯について教えてください。

薬品や素材を開発するメーカーで研究者の職に就くことが夢で、化学を志していたのですが、大学の修士課程で挫折。自分自身が煮詰まっちゃっていた上に、ちょうど世間はリーマンショックの煽りで就職先探しもままならず、2年近くブラブラしてました。しかし、いつまでもそうしているわけにもいかず、もともと僕は本が好きだったので、書店に就職することにしました。本の中でも僕が特に好きだったのは「新書」と言われるジャンルです。新鮮な切り口や大胆な仮説、キャッチーなタイトルなどで読者を惹きつけ、一部にはマニアと呼ばれる人たちも存在します。僕はその新書の魅力に高校生の頃からハマっていました。だから書店に入ってからも、もちろん新書を担当させてもらいましたが、販売員として見る書棚は、客として見るそれとは大きく違いました。そこに並んでいる本は、ただ売れるか、売れないかで価値を決められる「商品」以外の何者でもなかったのです。やがて僕は空しさを覚えるようになり、入ってから5年で「もう限界だな」と思って、転職を決意したというわけです。

書店ではモノゴトが上の方で決まっていて、末端の自分たちは上から降ってきた役目を果たすだけでした。だからハローワークで当社の求人票を見つけたとき、この会社なら専門家として、自分で考えたり、自分のモノサシで判断しながら仕事ができるのではないかと、とても興味を惹かれました。とはいえ不動産鑑定については何も知らなかったので、家に帰ってからインターネットなどでいろいろ調べてみたところ、なんだか面白そうな気がしてきました。鑑定評価っていうのは、もしかしたら世の中の動きと土地の価格との関係を数式みたいなモデルで語ろうとするものであって、分子や電子の挙動と化学変化との関係を解析する化学の世界とどこか似ている、と思ったのです。

木村
●配属された営業開発部の
業務について教えてください。

営業開発部は、当社が中核業務として扱っている不動産以外の「動産」や「無形資産」の価値評価に加えて、土壌汚染調査、アスベスト調査、空き家対策事業などの調査業務を行なっていて、時代に合わせた当社の事業拡大を担っている部門です。

動産というのは、工業機械や設備とか、車両や船舶などに加えて、材料や製品としての在庫といったものが対象になります。最近は動産評価の受注案件数が伸びており、僕はここ2年間で70~80件の評価を担当しました。調査期間は大きい案件で約1ヶ月。M&Aとか減損目的などの、神経を使って取り組まなければならない案件だと、1ヶ月半から2ヶ月かかることもあります。評価対象としては機械・設備が多いですが、コロナ禍の影響で最近は観光バスの評価依頼も増えています。

無形資産として、わかりやすい例をあげるなら、特許とか商標権、著作権といったところですが、近年は人的資産やノウハウ、顧客データやネットワークなど多岐にわたっています。今後、DX化が進むと無形資産の比率はさらに大きく広がる可能性があるので、当社もそうした変化に備える必要が出てきています。

この部へ配属されて初めの2年間は、大学時代の知識も活かしながら土壌汚染やアスベストの調査業務を担当して、特にお客様とのコミュニケーションなどの面で貴重な経験を積みました。3年目からは動産評価を中心に全ての業務が割り振られ、必死で勉強しながら仕事をこなす日々が始まりました。この時期は大変だったけど、部長や先輩は穏やかな目で見守って下さったので、焦らず一歩一歩着実に進むことができました。

あの挫折もきっと、ここへ来るための
マイルストーンに過ぎなかったのだと思う。
木村
●業務を行うにはどのような知識や
ノウハウが必要ですか?

基本的には法律、会計、経済といった多面的な知識が必要になります。僕の場合、新人の頃担当していた土壌汚染調査では、学校で学んだことが役に立ちましたが、動産とか無形資産評価になると、足りない知識の方が圧倒的に多くて、今に至っても、その都度勉強している状態ですね。

それと、様々な評価対象を扱うこの仕事になくてはならないのが、いわゆる「つながる技術」です。評価対象となる生産機械や建設機械、車両などの市場価値を全て把握することはできないので、例えば生産機械であれば中古機械の買取を行なっている業者さんなどの専門家を探し出して、協力してもらわなければなりません。

世の中には、例えば工場や宿泊施設などの損害保険額を鑑定する「損害保険鑑定人」など、様々な専門家がいるものです。そういう貴重な外部リソースを探し出して、自分の仕事上の武器にしていくことも、この仕事には欠かせません。

知識やノウハウはさておき、適性ということで考えるなら、この仕事を面白いと思えるかどうか、というのも大切な条件のひとつかもしれません。

そもそも僕は様々な制約の中で、問題解決に向けて考え抜くことが決して嫌いではないので、評価対象ばかりでなく、目的も背景も異なる多様な案件に、一つひとつ腰を据えて取り組めるこの仕事にとても大きなやり甲斐を感じています。

かつて自分の目指した化学の道では挫折してしまいましたが、今となっては、それさえもこの仕事に巡り会うためのマイルストーンに過ぎなかったのではないか──と、そんなことを考えてしまうくらいに僕はこの仕事が好きになりました。

●将来のビジョンについて教えてください。

現時点で明確なゴールというものはありませんが、とにかく今は日々の業務の中で、新たな知見や出会いの機会を得て、着実に成長していくことが目標です。

チャレンジしてみたいことがないわけではありません。

例えば不動産のリフォームや改修でどれぐらいバリューアップするのか、といった「未来価値評価」の開発には興味があります。時間軸を未来へたどる過程での状況変化を統計的に解析して、評価する仕組みができないかと思っています。いずれ実現に向けたアクションを起こそうと思っていますが、今はひたすら自分を鍛えながら、構想を温めている段階といったところです。

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