三友ヒストリー

第二話 お互いの強みをつなげる

製販分離型のビジネスモデル

不動産鑑定士ではない井上が不動産鑑定業を立ち上げるためには、井上の創業理念に共感してくれる不動産鑑定士の参画が不可欠でした。そこで井上は、若手を中心に協力してくれる不動産鑑定士を募ることから始めました。井上が若手の不動産鑑定士に着目したのには理由がありました。当時の不動産鑑定業界は徒弟制的な色彩が濃く、親方的存在の年配の不動産鑑定士が地域の仕事を取り仕切っており、若手の不動産鑑定士は資格を取得しても直ぐには十分な仕事にありつけないという境遇にありました。「全国の若手鑑定士に仕事を安定的に供給できるならば協力してくれるに違いない。自分は営業部長として顧客から鑑定依頼を集め、彼らが製造部門として不動産鑑定評価書を作成する製販分離体制なら上手く回る。」

図2:お互いに支え合う好循環の連携
図2:お互いに支え合う好循環の連携

─ 資格も経験もない井上が不動産鑑定市場に参入するために必要とされる事業体制の青写真が固まりました。その一方で、自身に課した販路開拓と商品開発には、かつて金融マンとして不動産鑑定業者のサービスを利用できずに不便さを痛感していただけに、使命感にも近い感覚に支えられた、確かな自信を感じていたのです。

最小限の固定費

不動産鑑定士との間で雇用契約ではなく委託契約によって提携網を構築する方法には、実は大きなコストメリットがありました。雇用契約だと人件費という大きな固定費が経常的に発生することになりますが、顧客から受注した案件ごとに報酬を支払うシステムを採用していた委託契約は、仕事がない限りは不動産鑑定士への支払が発生しません。必要なときに必要なだけマンパワーを得ることのできるジャスト・イン・タイム方式の極めて合理的なシステムでした。受注量がまだ安定していなかったスタート段階の井上にとっては、固定費の負担を心配せずに維持できる実に合理的なビジネスモデルだったのです。

強みで支え合う

井上が提携網にこだわったのにはもう一つの理由があります。全国各地の不動産マーケットに精通しているのは現地の不動産鑑定士です。したがって品質確保の点から見ても、彼らとの提携は不可欠だったのです。加えて、遠方からの派遣ではなく、現地の不動産鑑定士にお願いすることによって、交通費などの経費削減と作業日数短縮にもつながりました。

井上は、サラリーマン時代から成功を自分ひとりの手柄のように振りかざすスタンドプレーにはほとんど興味がありませんでした。それよりも、見た目は「寄せ集め集団」であっても、それぞれの得意分野や強みを持ち寄ってチームでワイワイガヤガヤ話し合いながら、課題に挑戦するチームプレーに面白さや成功したときの醍醐味を感じる方でした。様々な才能やバックグラウンドを持つ人材をつなげて化学反応のように新たな可能性の発火を促す ─ 井上の経営スタイルとして定着しつつあったのは、そんな結合反応を仕掛けるコーディネイト役だったのかもしれません。

不動産鑑定士との全国提携網は業界ではまったく前例のないビジネスモデルでした。当時を振り返って井上は次のように述懐しています。「自分としてはまったく新しい事業を創造したという意識はない。業界が見向きもしなかったところに大きな需要の山があるのに気づき、既存の仕組みに修正を加えただけで、あまり労力も費やさずに作り上げることができた。僕が鑑定業界の中におらず、外部の人間であったことが、岡目八目的な発想につながったのではないか。」